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IAMASフォーラム京都編:なぜ学際的研究は求められるのだろうか?:bet36体育在线-体育投注官网@

bet36体育在线-体育投注官网@[IAMAS]では、「芸術的感性と科学的知性の融合」を建学の理念に、制作することで初めて得られる知を重視する学際的研究を展開しています。学際的(interdisciplinary)や超学際的(transdisciplinary)という言葉は、大学における研究だけでなく、企業においてイノベーションに帰着することを目指す活動でもよく耳にします。しかしながら、実際のところ「言うは易く行なうは難し」です。IAMASでも、教育?研究の現場において学際的あるいは超学際的な活動を意識してきましたが、実際の活動ではさまざまな困難に直面し上手く行かないことも多々あります。それでも、建学以来20年以上に渡って実践し続けているからこそ語れることがあるかもしれません。そこで、学内における知見と議論を外部に開くことを目的として、「なぜ学際的研究は求められるのだろうか?」をテーマに、小さなフォーラムを開催しました。

2023年6月10日に京都で開催したこのフォーラムは、ワークショップとトークの2部で構成しました。ワークショップ「Boundary Media Workshop」(定員12名?満席)は、IAMAS博士後期課程3年に在籍し、イノベーションマネジメントを研究する神谷泰史さんによるものです。企業がイノベーションを実現するためには、創造した事業アイデアの実現に向けてプロジェクトのメンバーが協働する必要があります。ところが、部署?経験?価値観などが異なる多様なメンバーが協働するのは実際のところ容易なことではありません。そこで神谷さんが着目したのが、イノベーション活動において意図的に投入される媒体(メディア)です。このワークショップでは、イノベーションを目的とした事業アイデア創造を行うグループを想定し、テーマに従ったアイデア創造を行いました。アイデア創造の過程で、テーマを創作的に表現したメディア(バウンダリー?メディア)を制作し、それらを鑑賞することを通じて、グループ全体のアイデア創造の視野を広げることを目指しました。

次のトークには約40名が参加し、IAMAS教員でコミュニケーションシステムを研究する平林真実さんと、メディア?コミュニケーションを研究する金山智子さん、神谷さんが、IAMASにおける多彩な学際的研究の実例からいくつかを紹介しました。平林さんが紹介したのは、「NxPC.Lab(新次元多層メディア的クラブ体験研究室)」と「体験拡張表現プロジェクト」です。NxPC.Labは、クラブなどにおけるアーティストと観客の相互作用によってもたらされる場の臨場感を拡大し、ネットへも拡散させるためのメディアテクノロジーの実現を目指しています。体験拡張表現プロジェクトは博士前期課程の実習の1つで、テクノロジーを使いこなし、テクノロジーに適した高度な表現を研究することで、新たな体験拡張の創造を目指しています。情報工学系出身でクラブが好きだった平林さんは、特に学際的ということを意識していたわけではないものの、自分の好きなことに取り組んでいるうちに情報工学系と表現系の両方にまたがる複合的な活動へと発展していったといいます。10年以上の活動を経て、既存の研究領域に繋げられるところが出てきたこともあり、情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会などでの発表を続けています。

金山さんは、transdisciplinaryという概念が、自身の参加する国際学会?文部科学省の「博士課程教育リーディングプログラム」?これまでに在籍した教育機関で着目されたことを紹介しました。その上で、岐阜県本巣市の根尾という地域の中で現地の人たちと一緒に協働してきたプロジェクト「根尾コ?クリエイション」と「Community Resilience Research」について事例として紹介しました。その中には、学際的な協働の場面が何度となくあったといいます。例えば、社会科学系、情報工学系、アート系、デザイン系など、異なる分野出身の人々が共通して興味を持った古い民家を現場として取り組んだことにより、地域の産業も巻き込んだ学際的な協働へと発展しました。また、10年近く継続してきた活動の成果報告として2022年10月に岐阜県美術館で開催した展覧会「ねお展:アジール(自由領域)であり続ける地域のこれまで そして これから」(イベントbet36体育在线-体育投注官网@)を訪れた現地の方から、この展示を通じて自分たちの住んでいる場所の姿が見えてきたというコメントが寄せられるまでに至ったといいます。金山さんは、こうした学際的あるいは超学際的な活動について報告する学術コミュニティがなければ自分たちでその機会をつくること、自分の色(自分の領域や感性)がありつつ他の色と混じってグラデーションへと生成していくこと、その色は固定化するのでなく動的なものと捉えることが重要なのでは、と投げかけました。

続けて神谷さんからも話題提供がありました。神谷さんは、メーカーでイノベーションに関するデザイン戦略の仕事をしつつ、デザイン会社も兼務し、自身でサウンドアーティストとして活動しています。元々は工学部で半導体工学と複雑系工学の研究をしていたのが、気付いたらイノベーションとアートとデザインの研究をしていたといいます。イノベーション活動においてアートを活用しようという動きはありつつも、実際のところかなり困難です。そこで、企業における活動に組み込めるよう、デザインの文脈を使ってイノベーションとアートをつないでいくことを研究領域にしています。それを進めるにあたり、アート、デザイン、イノベーション、それぞれの専門家がいる大学院だったというのがIAMASを選んだ理由だったと話してくれました。神谷さんは、研究室制ではないため特定の領域を極める研究には向かないのではと指摘しつつ、だからこそ自分で開拓しようというモチベーションが生まれるのではないかなど学生としての視点からも率直にコメントしました。

トークの後半では、参加者から寄せられた率直かつ活発な質問を取り上げつつ議論していきました。多岐にわたる質問とそれらをきっかけとする議論の全てをここで紹介することはできないため、2つだけとりあげます。まず、他の多くの学校と大きく異なる点として、IAMASには研究室制がありません。これは、特定の領域に複数の教員がいないためそもそも研究室制は適さないという事情もありますが、各教員の研究領域に押し込められることなく自由に回遊できるということでもあります。主?副指導教員合計3名によるチームティーチング制となっており、主?副指導教員とは別の教員が主宰するプロジェクト実習も履修でき、さらにその他の教員に意見を求めることもできます。この点は、神谷さんの話題提供におけるコメントにもつながるでしょう。

もう1つの点として、IAMASでは短期的な研究成果を求めません。平林さんと金山さん、いずれの活動も、現場における10年くらいの活動を経て初めて成果と呼べる何かが見えてきたという複雑なものです。短期間の調査に基づいて課題を設定し、その課題を解決するアイデアを提案しようという取り組み方は、工学系やデザイン系ではよく耳にします。さらに、社会的なインパクトを目指し、課題解決を目的としたスタートアップを起業しようという動きも推進されています。それは、デザイン、工学、アートなどを学んだ人々が活躍する場をつくることにつながるのは確かですが、解決だけが選択肢なのか、社会的なインパクトだけが評価指標なのかという点には議論の余地があるでしょう。恐らく、現在主流となっているこうした言説に普段触れている方から見ると、今回紹介したIAMASにおける事例は現実離れしたものに思えてしまったかもしれません。しかしながら、これらもまた確かに現実に根ざした活動であり、短期的な課題解決と事業化とは異なるオルタナティブな選択肢の提示だったと言えるのではないでしょうか。
これらの話題も含めた議論が展開された当日の様子を収録した記録動画を公開中です。質問への回答を巡る混乱も含めて、IAMASの複雑さと面白さが感じられる内容だと思いますので、ここまでを読んでどこか気になるところのあった方はぜひご覧ください。なお、今回に引き続き7月22日(土)?23日(日)の2日間に渡りフォーラム「IAMAS OPEN HOUSE 2023」を開催します。こちらもぜひご参加ください。

テキスト:小林茂
撮影:木下浩佑、蛭田直